年間販売目標の達成に向けて市場が「金九銀十」の商戦に突入するなか、奇瑞汽車集団(Chery)は中国自動車産業の歴史を再び塗り替えた。8月末時点で累計輸出台数は700万台を突破し、「中国乗用車輸出台数首位」の記録をさらに更新した。
注目すべきは700万台という数字そのものではない。奇瑞の輸出構造が大きく変化し、新エネルギー車(NEV)が世界成長の新たな原動力となっている点だ。8月のNEV販売は12万1000台と前年同月比69.8%増。中国国内ではNEV比率が61.9%に達し、海外市場でもNEV浸透率が急速に高まっている。世界のNEV乗用車市場におけるシェアは5.5%で、自動車グループ世界トップ5入りを果たした。
かつてガソリン車で海外市場を切り開いた奇瑞は、いまNEVによってグローバル戦略を再定義している。ここに、中国自動車産業の世界進出を支える「最大の秘密」が隠されている。
2001年、設立からわずか4年の奇瑞は「風雲(Fulwin)」セダン10台をシリアへ輸出し、中国自主ブランドとして初めて完成車輸出を実現した。2003年には初のCKD現地生産を開始し、本格的な海外展開に踏み出した。さらに2014年にはブラジルで初の海外完成車工場を稼働させ、中国乗用車メーカーのグローバル化を新たな段階へ押し上げた。
現在、奇瑞は世界12カ所に主要生産拠点を持ち、そのうち3カ所が海外完成車工場だ。アジア、欧州、南米、アフリカ、中東といった主要市場をカバーし、販売だけでなく研究開発、生産、サービスまで現地化を進めている。
エンジン技術で海外メーカーに依存していた時代から、中国NEVが世界へ広がる現在まで、奇瑞は23年間にわたり中国乗用車輸出台数首位を維持してきた。完成車輸出から現地組立、自社工場建設、さらには海外企業との新しい合弁モデルまで、奇瑞は中国メーカー独自のグローバル化モデルを築き上げた。
その成果は収益性にも表れている。奇瑞汽車株式会社の公表した財務情報によれば、2026年上半期の売上高は1432億8000万元、純利益は85億6000万元。粗利益率は16.1%、純利益率は6.3%となり、中国自動車製造業平均(3.8%)や完成車メーカー平均(約1.5%)を大きく上回った。価格競争が続く中国市場でも、高い利益体質を維持している。
奇瑞は海外進出初期、未知の法規制やブランド認知、サプライチェーンの壁に直面しながら市場を切り開いた。いまでは世界のユーザーに「中国製」の価値を伝える存在となり、中国メーカー全体に海外市場という巨大な成長機会を示している。
トヨタが北米・欧州で築いた基盤、フォルクスワーゲンが中国で構築した成功モデルが示すように、グローバル化は主要メーカー共通の成長戦略だ。奇瑞は販売規模だけでなく、利益率と持続可能な経営によって、中国メーカーも世界市場で十分戦えることを証明した。
ガソリン車もNEVも価格競争が激化するなか、奇瑞は「国内市場+海外市場」「ガソリン車+NEV」という二本柱で成長を維持している。欧州や中東など高付加価値市場での販売が利益基盤を支えている点も大きい。
2026年1〜8月の累計販売は191万4500台で前年同期比10.8%増。8月単月では28万100台(15.4%増)となり、BYD、上汽集団に次ぐ中国業界3位につけた。
海外市場ではさらに存在感を強める。1〜8月の輸出台数は134万3300台で68.1%増、8月単月では19万7000台と52.1%増を記録した。販売全体の約7割が海外市場向けとなり、「10台売れば7台が海外」という構造に変化している。
とくに欧州では成果が際立つ。1〜7月の販売は20万8000台を超え、前年比201%増。NEV販売は10万1000台を突破し、330%を超える伸びを示した。JAECOO 7、JAECOO 5、OMODA 5の3モデルは英国市場の販売ランキング上位に入っている。
NEV分野では、BYDや吉利より参入は遅れたものの、現在は販売拡大の中心となっている。NEV販売は5カ月連続で月10万台を超え、新世代モデルも次々と投入されている。
風雲ブランドは奇瑞NEV戦略の中核となり、セダンとSUVを展開。PHEV、EREV、BEVを同時に開発し、発売24時間で2万3000件を超える受注を獲得した風雲T7は、次の世界戦略車として期待される。
華為(Huawei)との提携による「智界(LUXEED)」ブランドも、奇瑞のスマートEV戦略を加速させた。最新モデル「智界V9」は累計納車2万台を突破し、50万元クラスのNEVミニバンとして最速ペースを更新している。
さらに奇瑞は、ジャガー・ランドローバーと共同で「Freelander」ブランドを復活させ、高級オフロード市場にも参入した。第1弾モデル「Freelander
8」は中国発売から12時間で5000台の受注を獲得し、中東市場への投入を経て2027年には欧州市場へ進出する計画だ。
現在、中国メーカーは一斉にNEVで海外市場へ向かっている。しかし奇瑞の戦略は単なる「製品輸出」ではない。企画・開発の段階から世界市場を前提に設計する「グローバル同時開発」が特徴であり、その自信の源泉が23年間・700万台の海外事業の蓄積にある。
ガソリン車全盛期から現在のNEV競争まで、奇瑞は「瑞虎(Tiggo)」シリーズから「風雲」ブランドへと進化しながら、自社開発力で海外市場を切り拓いてきた。その現地化運営モデルは、多くの中国メーカーがグローバル戦略を立てる際の重要な参考事例となっている。
今後、中国NEVブランドが世界市場で競争を深めるなか、「中国乗用車輸出首位」の座は永遠ではないかもしれない。
それでも、中国自動車ブランドのグローバル化を象徴する存在として、奇瑞が長年築いてきた世界同時展開モデルは、なお中国メーカーの代表的な成功事例であり続けるだろう。
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