世界の新エネルギー車市場で、先進的な技術の蓄積と量産規模を武器に、BYDはトヨタを猛追している。中国市場で販売首位の地位を固めた今、次の重要市場となるのが欧州だ。欧州はBYDにとって、ブランド価値を高める戦場であると同時に、現地化経営の実力を試す重要な市場でもある。
BYDの李柯執行副総裁は2026年のパリモーターショーで、2030年までに欧州の従業員を4万人超に増やす計画を明らかにした。完成車の輸出企業から、欧州に根を下ろした現地生産メーカーへと転換を進める。現在、BYDの欧州従業員は約1万人。ハンガリーに建設中の欧州初の完成車工場は2026年第4四半期の稼働を予定し、第1期の年産能力は15万台を計画している。
世界販売首位の自動車メーカーであり、欧州でも乗用車販売2位のトヨタは、欧州で2万人を超える従業員を抱え、英国、フランス、トルコなど6カ国に8カ所の生産拠点を構える。2025年の欧州販売台数はレクサスを含め122万9000台。2017年以降、年間100万台規模を維持してきた。主力は「ヤリス」「カローラ」「C-HR」の3車系で、合計で総販売台数の約6割を占める。なかでもヤリス系は年間36万7400台を販売し、首位に立っている。
圧倒的な収益力に加え、北米、欧州、日本でバランスよく事業を展開するグローバル戦略。世界の自動車メーカーにとって、トヨタは究極の目標といえる。
しかし、現代自動車・起亜、ゼネラル・モーターズ(GM)、ステランティスのいずれも、トヨタと同じ存在になることは難しい。そもそも、すべてのメーカーがトヨタを目指す必要があるわけではない。特定の市場で確固たる地位を築くことも、有効な成長戦略だからだ。
世界第2位の自動車メーカーであるフォルクスワーゲン(VW)は、電動化への転換に苦戦し、世界最大の市場である中国でも厳しい試練に直面している。トヨタと本格的に競争できる潜在力を持つメーカーは、BYDをおいてほかにないのかもしれない。BYDは新エネルギー車の技術、サプライチェーン、販売規模で世界有数の競争力を備えている。
それでも、BYDが将来の勝者となるためには、トヨタのような存在になり、さらにトヨタを超える必要がある。
トヨタは年間1000万台規模の販売を背景に、世界首位の座を維持している。その基盤にあるのが、世界販売上位の「RAV4」と「カローラ」だ。RAV4は2025年に世界で128万台を販売し、世界販売首位の座を守った。
販売台数だけでは測れないBYDの課題
BYDの2026年9月の販売台数は過去最高の46万3500台に達し、1~9月の累計販売台数は313万1500台となった。中国市場で首位を維持しているものの、個別車種の販売力や収益性に目を向けると、その優位性には試練が訪れている。
BYDは依然として幅広い商品群を持つ。しかし、競争が激化する中国市場では、一部の従来型主力車種の優位性が薄れ、細分化された市場で首位を獲得する車種も、吉利汽車やテスラなどの競合に奪われつつある。
2026年1~9月の中国市場では、セダン、SUV、MPVの各カテゴリーで小売販売首位となったのは、それぞれ吉利汽車「星願(E2/EX2)」、テスラ「Model Y」、広汽トヨタ「シエナ」だった。
総販売台数ランキングでは、BYDの「方程豹・鈦7」が16万5700台で3位、「 元UP ( 参数 丨 图片 )(ATTO 2)」が14万8600台で6位に入った。一方、高価格帯を担う「漢(HAN)」と「唐(TANG)」の販売台数は、それぞれ2万6200台、1万4400台にとどまった。上級モデルとして投入された「漢L」と「唐L」も4987台、4487台にすぎず、生産終了のうわさまで出ている。
「海鷗(Dolphin Surf/ATTO 1)」「宋(SONG)」「騰勢D9」といった主力車種も、期待されたほどの市場成果を上げられていない。高級車市場では、苦戦がより鮮明になっている。
次世代「海鷗」、大型SUV「大唐」、大型セダン「大漢」は、BYDが2027年に飛躍できるかを左右する重要モデルだ。大唐は9月に月間販売台数1万台を突破し、大漢も正式に発売された。
吉利汽車や奇瑞汽車などの既存メーカーが電動化を加速させ、零跑汽車や小米汽車といった新興メーカーも販売を伸ばすなか、BYDは総販売台数で首位を維持するだけでは不十分だ。特定の市場で圧倒的な存在感を持つヒット車種がなければ、販売面の優位性を長期にわたって維持することは難しくなり、競争力そのものも問われることになる。
BYDが2025年の年間販売台数約460万台を上回るには、2026年第4四半期に約147万台を販売する必要がある。月平均では約49万台となり、記録更新を続けなければならない計算だ。第2世代ブレードバッテリーの生産能力拡大と海外市場の開拓が進めば、BYDにはさらなる成長を実現する技術力と規模がある。
三電システム(駆動用電池、モーター、電動制御)や半導体の自社開発技術を持つBYDは、他の中国メーカーにはないグローバル展開の強みを備えている。海外市場は販売台数の拡大だけでなく、利益を確保するための重要な収益源となりつつあり、BYDの将来を左右する存在だ。
BYDが公表した2026年上期の決算によると、中国国内の価格競争と為替差損が響き、利益は前年同期を下回った。グループ売上高は3448億1500万元で前年同期比7.13%減、非経常損益を除いた純利益は123億7300万元で同9.02%減となった。為替差損は47億元に達し、純利益率は3.58%だった。
一方、海外売上高は1812億6800万元と前年同期比33.92%増加し、グループ売上高の52.57%を占めた。海外事業の売上比率が初めて半分を超え、BYDの経営構造における海外市場の重要性が一段と高まっている。
世界で認知される「代表車種」が必要だ
BYDはすでに相当な世界販売規模を実現している。しかし、世界市場でのカバー範囲、車種のライフサイクル管理、ブランド認知度では、依然としてトヨタとの差がある。
とりわけ注目すべきなのは、BYDが豊富な商品群を抱えながら、世界市場で「カローラ」や「RAV4」に匹敵する認知度を持つ代表車種を確立できていないことだ。
トヨタはセダン、SUV、ハッチバック、ワゴンなど多様な車型を展開しながら、カローラを世界的なベストセラーブランドへと育て上げた。カローラは単なる量販車ではなく、世界中で知られる車名となっている。
さらに、南北トヨタが販売、販売網、商品体系の連携・統合を進めれば、カローラやRAV4などのグローバルモデルが持つ規模の優位性は、いっそう強まる可能性がある。
近年、BYDは王朝シリーズの車種をベースに海洋シリーズでも類似カテゴリーの商品を展開してきた。「騰勢(Denza)」と「方程豹」も相次いで新型車を投入している。「唐」についても、「唐L」や「大唐」など、デザインや位置付けが大きく異なる派生モデルが登場した。
急速な商品拡充を続けてきたBYDだが、中国メーカー全体の競争力が高まり、世界展開も本格化するなかで、成長のスピードを落とすわけにはいかない一方、戦略を見直すべき新たな段階に入っている。
海外展開の次の課題は収益力とブランド力
2026年9月、BYDの海外輸出台数は17万9800台に達し、総販売台数に占める輸出比率は約39%となった。前年同月比では153.9%増加した。1~9月の累計輸出台数は133万7800台で、155万台を輸出した奇瑞汽車を下回った。
2027年4月1日から、中国では新エネルギー車の輸出に適用される増値税還付率が13%から9%に引き下げられる予定だ。これにより、中国メーカーの海外事業の収益力はさらに試されることになる。
ガソリン車と新エネルギー車の両方を手掛ける奇瑞汽車や吉利汽車とは異なり、ガソリン車から撤退したBYDは、政策変更による収益面の影響を受けやすい可能性がある。
さらに、奇瑞汽車はガソリン車の輸出と海外市場の運営で長年の経験を蓄積してきた。「ティゴ」シリーズは国際市場で一定の認知度を築いており、奇瑞は中国車の海外販売を代表するメーカーの一つとなっている。
BYDは「元UP」「海鷗」「 宋PLUS 」などを海外展開の主力としているが、海外の商品構成はまだ分散している。複数の市場で継続的に販売を伸ばし、安定した利益を生み、ブランド認知を高めるグローバル主力車種が必要だ。トヨタにとってのRAV4やカローラに相当するモデルである。
2026年のパリモーターショーで、BYDは「唐L」を2027年第1四半期に欧州市場へ投入すると発表した。欧州では「ATTO 8」の名称で販売する予定で、BYDブランドの欧州向けモデルとして最上位に位置付けられる。
中国自動車メーカーが一斉に新エネルギー車への転換を進めることで、国内競争は激しさを増している。一方、世界市場には新エネルギー車への潜在需要が残されている。中国メーカーが海外投資を拡大するのは、販売規模の拡大と収益機会の確保を両立させるためだ。
BYDの海外戦略は、トヨタのような存在になり、さらにトヨタを超えることを目指すものだ。他の中国メーカーが必ずしもトヨタを目指す必要はないし、同じ戦略を再現できるとも限らない。
この違いを理解してこそ、中国の自動車メーカー各社は、BYDの大規模なグローバル展開が進むなかでも、それぞれの強みを生かした差別化戦略を見いだせる。
中国メーカーにとって参入障壁が高い北米市場をいったん除けば、トヨタの成長戦略にはBYDが学ぶべき点が多い。カローラとRAV4はトヨタを象徴する車種であり、奇瑞汽車にも「ティゴ」がある。
では、BYDを象徴する車種は何なのか。
それこそが、BYDが次に答えを出さなければならない問いである。そして、中国市場で販売首位に立つだけでは、その答えを見つけることはできない。
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